⑤ ガルワン攻防(Galwan attack and defence)2

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【ダラムシャーラー ⇒ シュリーナガル ⇒ ラダック】

 「少年! 窓開けてみるかい、そこのハンドルを回すんだ。珍しいだろ、」

 のどかに車道を牛が歩く当たり前の風景も、ドライブに楽しげなツァムジュ少年へ、パラミタ女氏が声をかけた。

 「うん、見たことないです。」

 「中古車でも手回しハンドルは、もう見ないからねェ、

ギアチェンジが手動式なんて車はさ、アプリケーション導入以前の技術で、エンジンのクランクとカムが制御してるから、

 核戦争で世界中の電子機器が使えなくなっても、この車は走ってる。あたしはねこう云うのが好きなんだよ。」
 

 様々な学校を通り過ぎ、いくつもの橋を渡り、サフラン畑の広がるインド最長の国道44号線を、ジェルム川と共に北上すれば、

ジャンムー・カシミール連邦直轄領れんぽうちょっかつりょうの夏季の主都は、湖畔の麗しきシュリーナガルを回遊して征く。

 シュリーナガル レー ハイウェイから、シュリーナガル ラダックロードを更に東へ進むと、もう少しでラダックの中心都市レーへ到着する。
 

 「先生〜 途中の積雪で21時間かかっちまった。」

 「いやいや、貴方でなければレーにまだ到着していない、楽しかったよパラミタさん。」

長くも名残おしきラダックまでの旅は終わり、ここからはチャイナとの国境線を目指す。
 

 ツァムジュ少年僧にとっても、故郷からダラムシャーラーまで以来の道程みちのりであった。

 「面白かったかい、」

 「ヤーダヴさん、ありがとう。」

 「パラミタで良いよ。ジュレー、ツァムジュ!」
 

 「丁度ですよパラミタさん。あそこの観光ホテルで、御坊さんと23時に待ち合わせです。」

 ヤンゾム氏が指し示すホテルへ着くと、一人のチベット僧の格好をした男性が待っていた。

彼はダルそうに椅子へ腰掛け、仕切りに頭の左側を、手の平の付け根で叩かずには居られぬようにしていたが、こちらを見やり、

 表情を引き締め、シャーロックに歩み寄る。
 

 ロンドンの標高は24メートルである。インドの首都ニューデリーの標高は216メートル。

チベット亡命政府が在るダラムシャーラーの標高が1,457メートル。

レーの標高は3,500メートルあり、標高2,500メートル以上の高地では人によって高山病になることがある。

 この見かけぬ若い男は、その症状の一つ頭痛に苦しんでいるようだ。

ニューデリーなどにも多くのチベット僧がそんするから、可能性として低地に長く住むその一人であろう。

 「シャーロック・ホームズ先生お待ちしていました、私はニューデリーから来たパキャーと申しますチベット僧です。

ダラムシャーラーのタルマー師からの紹介状です。」

 そう言いながら一枚の紙を取り出し見せた。
 

 タルマー師とは、ダラムシャーラーで長年仏法に仕える尼僧のことである。ヤンゾム氏はそれを見ながら、

 「タルマー師から、お話しはうかがっております。ラダックを案内してくださるそうですが、おくわしいんですか?」との問に、パキャー僧侶は、

 「いえ…… 以前、住んでいたこともありまして……」

 「そうですか。」と応対している間にも、特殊国境部隊 SFFからチベット兵が合流、

簡単に挨拶を交わし、着々とガルワン渓谷への移動が準備されてゆく。
 

 「お休みにはならないんですか?!」

 パキャー僧侶が驚いたように問うので、シャーロック・ホームズは、

 「僕たちは急いでいるんでね。

 貴方はどうぞ、こちらでお休みください。」

 と返事だけを残し、若い僧侶を置いたまま再び車へ乗り込み出発した。
 

 呆気にとられ見送るパキャー僧侶はトイレへ走り、携帯端末を取り出すと急いで通信アプリで文章を制作し始める、

 だがその文章は投稿されることは無い、

彼が操作しないにも関わらず、文字は何者かにより消されアプリは閉じられたのだ。
 

 2008年の北京夏季オリンピックに合わせ、各国で開催のトーチリレーは、

 「Free Tibet(チベットを解放せよ)」の社会運動を世界中で巻き起こす。

 これに恐怖した中国共産党は、工作活動に力を注ぐ。

 2014年、ネパールからインドへ潜入したチャイニーズ・スパイの男、仮称 ❝ルオ❞ は、インド人女性と結婚。

 ニューデリーに居を構えたルオは、複数の銀行口座でチャイナ企業と架空の取引を発注し、

この資金洗浄のかねを用いて、スパイになる者を誘い込み、ダライ・ラマ法王の周辺で工作活動を行わせる。
 

 ヤンゾム氏がパキャー僧侶について話すには。

 「タルマー師とは、会ったことあるみたいですよ、ハンサムなので覚えていたそうですけど、

何故とつぜん連絡して来たのか分からないと、おっしゃってました。」
 

 これを受け、パラミタ女氏が。

 「あの坊さんを連れて来なかったのは、正解だったと思うね。

チャイニーズが不法入国して、心を買収された者が、スパイになっちまう。かねが無いのはつらいことだから……

 警察に居た頃、❝注意しろよっ❞ て、良く言われたもんさ。

 ダラムシャーラー周辺のスパイは、2018年までに取り締まったけど裁判所で釈放されて、まだ居るからねぇニューデリーとか……」

 パラミタ女氏は元警察務めだけあって、チベット亡命政府周辺のスパイ事情に詳しいらしい。
 

 ガルワンに到着するとさっそく簡単なテントを張り、車中泊組みとに別れて明け方の作戦行動へ備え、休むことにした。
 

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新世界秩序しんせかいちつじょガルワン攻防(Galwan attack and defence)3

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新世界秩序しんせかいちつじょ(New World Order)

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いつもありがとうございますm(_ _)m
                  
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