お勢登場より 1

 
 「文代ふみよさん、今日も明智あけちクンの用事でお出かけですか、」

 「あっ、波越なみこし警部、いらっしゃいませ。」

 『明智 探偵事務所あけち たんていじむしょ』のドアを何時ものように勢い良く開ける警視庁第一課 波越なみこし警部と、

雑務を手早く済ませた文代ふみよは、入れ違いに事務所を出ることとなった。
 

 「――――文代ふみよさん、お疲れさまでした。ここは僕がヤルので、よろしくお願いします。」

 明智あけち 小五郎こごろうは例のモジャモジャ頭を揺らし、ニコニコしながらそう言うと、もうアームチェアから立ち上がって波越なみこし警部を何時もの長椅子へと誘い、

 流しの前で「コーヒーでしたね」

とドリッパーにフィルターを折り付けている。
 

 「明智あけちクンの意見だと『明治維新』で物部もののべ氏は復権した事になるよ?」

 「くまでも仮定ですけどね……」

明智あけちは今日も得意の持論じろんをぶつようだ。
 

 邪魔をせぬようそっと扉を閉め、明智あけちからのたのみを快諾かいだくした玉村たまむら 文代ふみよは表へと出た。

 初秋しょしゅうの暖かな陽射ひざしがほほ火照ほてらす午後のこと――――
 

 「面白そうなモノを探して来て欲しい、ボクは退屈たいくつが持たないのだ。」

 そう言った時の、

明智あけち屈託くったくのないほがらかな笑顔と、コーヒー豆のかれるかおりとが一緒になって文代ふみよの脳裏へくっ着いていた。
 

 こんな時、彼女には心当たりが有る。京橋から銀座にかけて美術品を置く店には事欠かない。

何か云われの有りそうな骨董でも美術品でも見付けられれば、明智あけちの手持ち無沙汰ぶさたも少しはやわらぐに違いなかった――――
 

 ――――それでは、

明智あけち 探偵事務所たんていじむしょ』の在る『水天宮すいてんぐう前駅』から京橋きょうばしを目指し、ぶらりと街を歩いてみよう。
 

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