④ 九龍籠城(The Besieging Demonstrators in Kowloon)1


 1989年6月4日、北京の天安門広場で中国軍のマスタード・ガスと戦車が、数多くの一般自国民を襲い虐殺した『六四天安門事件』から、

それは25年後の2014年に起きた。

 春は台湾で『ひまわり学生運動』が咲き誇り、
 秋には香港で『雨傘革命』が満開となる。

 『六四天安門事件』の経験から、相手が譲歩を見せるならば約束を守れるか、

国際社会と共に民主主義の矢が行く先で、確かな花を開かせるのを見極めよ。

【複数政党制】と【普通選挙】、人はそれを民主制度と呼ぶ。
 

 8月31日に、アイリーンが香港へやって来て以降、デモの全てへバーナデットと二人で出掛けて行って――――

デモへ行かない日も遅くまで語り合い、いつも帰りは深夜か朝帰りの時も有った物だから、

 アイリーンの夫であるゴドフリー・ノートンとしては、相手が女性と理解していたものの、

アメリカへ向かうのにハネムーンがてら、足を伸ばしてアジアに来て観れば夫を放って置いて……

 この一ヵ月半、まるで民主化デモへ参加するために香港を訪れたみたいじゃないかッ、
 

 ――――彼女は分かって居るのか僕の立場を!

 「あらどんな立場が有るのかしら?」アイリーンの声が聴こえて来そうだ。
 

 ❝あの男❞ とは、どうなって居るのか?!……

 「あら、あの男とは誰の事です?」彼女は素っ気なくそう応じ、

 あの男とは ❝あの男❞ の事に決まっているッ―――― 連絡を取っているんだろっ、

 「連絡なんて、」こう答えるだろう。
 

 ゴドフリー・ノートンの強固な自尊心が実際に問い詰めさせはしないけれど、

教会でアイリーンとの結婚の立会人に、彼自身が引っ張り出してしまった ❝あの男❞ の事を。

 彼女の近くでチラチラ靄ぐ寒けのような ❝あの❞ 人影に、僕が気付いていないとでも……
 


 10月15日、ホテルのエントランスの人々の出入りが分かる場所へ陣取ると、人目も気にならず妻の遅い帰りを今日も待ちぼうけながら、
 
 頭へ浮かんで来るのはこんな事ばかりだ。

 妻を寝盗られる幻想に取り憑かれた夫は、いよいよ額から角が生え始め、

 指令で一緒になったのだけれども、女の魅力にすっかり参ってしまっている男に、嫉妬の炎が燃え出すのをなかなか揉み消せない。
 

 今夜は早々にあきらめウイスキーでもあおり寝てしまえ、

 いつも通り25階のバーへ移動したらそこに女性二人は並んで座り、おそろいで新緑のカクテルを味わいながら夢中に語らっている。

 本日15日、アメリカ議会下院で『香港人権民主法案』が全会一致で可決されたのだ。

 「―――― 中文大学にデモ参加者が集まって居るのね…… あっ、」

 拍子抜けしたゴドフリーに気が付くアイリーンの側へ進むと、その腕を掴み上げてしまった。

 女性にこんな乱暴を、しかも人前で。紳士の行うべき事では無い。

 「二人で話そう。」
 

 「ちょっと待ってください、」バーナデット・チェンがそこへ割って入る。

 「君には関係ない。」

 「そうは行きません、」

 「三流記者だろッ、」ゴドフリーの声が大きくなった。

 「―――― おっしゃいましたね、」

 「インターネットの!」

 「インターネットのどこが悪いんですっ、」

 「感情的になったッ、」

 「大手の記者は自分の意思で記事が書けません。」

 バーナデットも敗けてはいない。
 

 「くだらん負け惜しみだ。

 正直な主張を書かずにいる対価で高給をもらっているんだよ、」

 「正直に書かずに何を書くんですか?」

 「正直な主張など大人がする事じゃないッ、」

 「日々のパンのために国を売り同胞を売るのが、メディアの仕事ですか!?」

 「国ぃ? 国ねっ、ハッ、」

 「私たちは奥に隠れた一握りの人々の操り人形じゃありません!」

 「ボクは上手く踊って魅せるよッ。」

 「解って言ってるんですね、貴方は――――」
 

 「何でもそうだよ、総てだ。法廷に立って一度でも真実の主張をしよう物なら、ボクの弁護士としての地位は24時間以内に無くなるだろう。」

 バーナデットに口を挟ませず、ゴドフリーは続けた。

 「この事情が分からず自分の正直な申し立てをする者は、失職して路上に他の職を探さなければならない。」

 「―――― 貴方、もう止めてください……」得意満面の夫の演説後の、

少しの沈黙を埋めるように、アイリーンの哀れんだ声がはさみ込まれる。しかしゴドフリー・ノートンはそれにかまわず、

 「これは弁護士だけの話しじゃ無いよ、検事も判事も、政治家も記者もッ、

 我等は楽屋に身を隠す富裕な人々の道具で有れば良いのだッ、決められた通りにやれば良い!」

 ゴドフリーがそう言い放つと同意は求めず妻を引きずり立て、

バーナデットが止めるのをアイリーンは「大丈夫。」と目配せし、二人はエレベーターへ消えて行った。
 

 「わたしは貴方を愛してないは。」

 夫妻が部屋へと辿り着き、苦く乾いた二人の間に、彼女のよどみ無いアルトの声音は奏でられ、重くゆがんだ言の葉をつづり合わす。
 

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